保育所の保育内容に関する調査研究報告書

(3) 森田倫代研究員による考察

 

 新しい保育指針では「第12章 健康・安全に関する留意事項」において乳幼児突然死症侯群の予防とアトピー性皮膚炎対策について新たな項目が設けられた。これは子どもの健康に関する認識が深まったためといえる。

1.乳幼児突然死症候群(SIDSについて)
(i) 定義

 「それまでの健康状態および既往歴からその死亡が予測できず、しかも死亡状況および剖検によってもその原因が不詳である、乳幼児に突然の死をもたらした症侯群」(平成6年度厚生省心身障害研究「小児の心身障害予防、治療システムに関する研究」による)と定義づけられている。それまで元気だった赤ちゃんが事故や窒息ではなく、眠っている間に突然死亡してしまう病気である。日本では年間500〜600人の赤ちゃんがこの病気で亡くなっているといわれている。

(ii) 原因
 まだよくわかっていないが、窒息等の事故と異なり、脳における呼吸循環調節機能不全が考えられているが、単一の原因でおこるかどうかの点も含めまだわかっていない。

(iii) 育児環境の中に危険因子
 「乳幼児突然死症侯群対策に関する検討会」の報告によると次の4つの因子があげられている。
・うつ伏せ寝
・人工栄養哺育
・保護者等の習慣的喫煙
・児の暖めすぎ

(iv) SIDSを減らすためのキャンペーン
 欧米では1980年代後半から実施し、実際にSIDSで亡くなる赤ちゃんが減っている。
 日本でも全国的な調査を平成9年度に行い、次のような結果が得られている。
・うつぶせ寝に寝かせることは、あおむけに寝かせるのと比べて3倍ほど発症の危険性が高い
・人工乳哺育の場合は母乳保育に比べて4.8倍ほど発症の危険性が高い
・父母ともに喫煙している場合は、していない場合に比べて4.7倍ほど発症の危険性が高い
うつぶせ寝、人工乳、喫煙によってSIDSの発生頻度が高くなるのは、欧米でいわれていることとほぼ同様の結果となった。
 1999年に厚生省が次のようなキャンペーンをはじめた。キャンペーンのポイントは
・うつぶせ寝をやめる
・子どものそばでは、タバコを吸わない
・子どもを暖めすぎない
・母乳で育てる
・赤ちゃんを一人にしない
その結果、前年同期の25%発生が減ったといわれている。特に寝かせ方はうつぶせ寝にしないことはもちろんだが次のようなことも注意をはらいたい。
・寝具は硬いマットを使用し、枕は使わない
・掛け布団やタオル、ひもなどが顔にかからないように
・ベッドの周りにはガーゼやビニールを置かないように
・赤ちゃんを寝かすときはいつも場所や寝具への配慮をする。ソファーなどに一時的でも寝かせない。寝具は柔らかいマットレスと重いブランケットの組み合わせは危険であるとされている。硬いマットレスと軽いブランケットで安全な環境を作り、寝返りを打てるようになった赤ちゃんの危険にも対応できる。

(v) 保育園での予防法とSIDSを少しでも早く発見する方法および対応として
・うつぶせ寝はやめ、仰向け寝にする
・布団は顔にかからないよう首から下にかける
・子どもを暖めすぎないようにする
・タイマーを使って定期的に呼吸の確認をし、同時に体にも触れ生きている確認と刺激 (直後に発症するかもしれないSIDSを予防)をするため。0歳児は5分に1回、1〜2歳児は10分に1回
・蘇生法ができるようにする(救命講習を受ける)
以上のようなことを注意することによりSIDSを予防したり早期発見ができると考えられる。この配慮は、窒息等他の事故を未然に防ぐことにもなる。

 今回の調査によると、4件の園でSIDSと思われる事例があったとのことである。SIDSは原因がはっきりわからず、窒息死、過失等を疑われる場合もあり、訴訟になっているものもある。生命にかかわることなので正しい知識をもち、予防と対策を考える必要がある。
 0〜2歳児の担当および、看護婦の理解はもちろんであるが、職員全体が理解していることが必要である。また、キャンペーンの内容をみてみると、保育施設では寝返りのできない乳児は必ずあおむけ寝で寝かせるようにしたほうがよい。自分でうつぶせになっても気づいたら仰向けにしてあげるほうが安心である。調査では、あおむけに寝かせていない園や未回答という施設が特に公営で目立ち、まだまだ意識が薄いといえる。早い対応が望まれる。
 SIDSは睡眠中に、突然に起こり、あまりにも静かに呼吸が止まるといわれている。完全に予防する方法はあるとはいえないが睡眠中に観察をきめ細かくすることにより少しでも早く発見することができると思われる。そこで「睡眠中の子どもの顔色、呼吸の状態をきめ細かく観察するよう心がけていますか」という設問を行ったところ、観察をしている園がほとんどだが記録をしている園はまだ1割程度という結果であった。しかし、中にはタイマーなどを使い5分後と10分後と観察をして記録している園も増えている。一人の子どもが眠った時間からタイマーをかけ、その時間になったら眠っているすべての子どもの観察をする。そして、記録をする。記録は時間をチェックするような簡単な方法をとれば負担にならないだろう。
 何年か前に「お昼寝の時には生存確認しています」という園の話を聞き「生存確認」という言葉の重さに驚いたが、現在では睡眠中の生存確認はずいぶん広まってきた。今後は、ますます観察した結果を記録しておくことが必要であり、増えていくであろうと思われる。また、観察といっても寝顔を見ただけでは呼吸をしているかの確認とは言えず、定期的に呼吸をしているかどうか寝息、脈を診たり、体に軽く触れたりして確認し、異常があった場合には蘇生法を行うことにより、より早い対応ができると考えられる。
 蘇生法に関してはビデオを見たりダミーを使った訓練を定期的に行うのが望ましいと思われる。乳児の蘇生法は成人のそれとは違っていて普通の救命講習では特に取り上げられないようだ。乳児から大人までの救急法を盛り込んだ救命講習会の開催が必要だろう。
 眠っている部屋はあまり暗くせず、子どもの顔色や表情がよくわかるようにしておき、保育士が見やすいようにしておくことも必要である。安いものではないが赤ちゃんが寝ている下に敷くマット式のモニターもできている。呼吸が止まるとアラームで知らせてくれるというものだが値段的にもまだ、高価で保育園の園児一人ひとりに対応するのはまだ現実的なものではないようだ。
 キャンペーンに人工栄養哺育と保護者の習慣的喫煙が挙げられているが、これは園だけで対応できるものではなく、保護者への情報提供が必要と思われる。人工栄養哺育への協力としては冷凍母乳を預かり協力するということが考えられる。喫煙については印刷物、講演会などでの情報提供などの方法が考えられる。また、園内では来客者であっても禁煙を厳守したいものだ。
 保育所でのお昼寝の時間は職員の休憩時間、会議、連絡帳の記入、掃除等の時間に充てられていることが多い。0歳児はお昼寝の時間が一定していないので、起きている子どもの保育にあたっている。しかし、眠っている子どもから目を離していた5分、10分の隙にSIDSや窒息の事故が起こる可能性がある。お昼寝の時間の体制と無呼吸に気づいたときの救急法をそれぞれの園で確認してほしいと思う。


2.アトピー性皮膚炎について
 年々増している。ここ20年くらいで急速に広がったといわれている。東京都の3歳児に対する調査では4割以上の子どもが何らかのアレルギー疾患にかかっているという結果が出た。そのうちアトピー性皮膚炎は18.0%と最も多く、その子どもの半数以上が食物アレルギーを、3分の1以上が喘息を併発しているなど、複数のアレルギー疾患にかかっているケースが多いことも判明している。

(i) アトピー性皮膚炎の治療
 治療には長い期間が必要で現在は、食事療法、軟膏療法、スキンケア、抗アレルギー剤・漢方薬などがある。

(ii) 除去食について

 今年度の新入園児の0歳児9人のうち8人がアトピー性皮膚炎の疑いありとの診断であった。離乳食が始まったばかりで除去食の要望もあり、診断書も出ている。顔など目立つところだとすぐにわかる。ひどい子どもだとミルクも普通のものは使えず指定のものを使う指導がある。食べたらすぐに反応する子どももいて、特に診断書が出ていない場合でも顕著にわかる場合は一時的に除去することもある。ただ、成長盛りの子どもに医師の診断もなく除去食を行うというのは発達の面からも危険である。医師の指示に基づき適切に行わなければならないだろう。
 家庭での除去食と違い、保育園では100人を越す乳幼児の給食を調理しているところも多く、乳児から保育している施設はきめ細かい離乳食も行っている。その中で除去食への配慮は特に気を使う点でもある。除去食の依頼があったときは看護婦、栄養士も含め調理担当と担任で話し合う。献立ができた段階で除去食を考慮し、その日の出席状況を確認してその子にあった食事を与える。小さい子どもであればとなりの子の食物に手が出てしまうこともあるので保育士の配慮も大切である。ある程度の年齢になると自分で除去するものをわかり判断する子どもも出てくる。字が読めるか読めないうちに、お菓子の裏の原材料表を見て「これは食べられない」という子どももいた。
 また、除去食はいつまでも同じではないので、診察を受けたあとは指示に変化があったかどうか確認する必要がある。食事制限は年齢が上がると消化・吸収能力が年齢とともに発達するためか減少していく傾向にある。家では食べているのに園では除去していたということもあるから注意が必要だ。また、子どもはできるだけ同じ物を食べたいので、見た目などの工夫も大切だ。

(iii) スキンケアについて
 アトピー性皮膚炎には汗をかくと痒くなったり皮膚炎を悪化させることにもなる。暑いときは皮膚を清潔に保つためにシャワーを浴びたりして汗や汚れを取る必要がある。その際に使う洗剤は重症な場合は低刺激性の石鹸を使わなければいけない場合があるので医師と相談して行うのが望ましい。シャンプーについても同様である。薬用や香料があるものは刺激があるので避けたい。また、洗ったあとは石鹸が皮膚に残らないように十分すすぐ。また、熱いお湯は刺激をしてかえって痒みを増す原因になる。40度が適温といわれている。洗う際は硬い材質のタオルでこすらないで、洗剤をあわだてて洗うのが望ましい。

(iv) 軟膏療法について
 皮膚が乾燥するのがよくないので保湿剤を塗布する必要がある。症状によってはステロイド軟膏や非ステロイド軟膏が処方されていることがある。特にステロイド軟膏は副作用の問題もあるが、拒絶して皮膚症状を悪化させてしまう場合もあるので信頼できる主治医とよく相談して使用することが望ましい。1日1回の塗布であれば入浴後に、2回のときは夜の入浴後と朝起床時に着替えるときに、3回のときは保育園では保育時間が長いので園内で塗布する必要が出てくる。その場合は、その子どもの主治医から処方されたもので、指示書にしたがって行いたい。たくさんの園児の中で保育士が一人の子どもに長くかかわるのが不可能な場合もある。看護婦がいる場合は看護婦が行うのが望ましい。戸外遊びのあとなどは目立つ汚れや汗はシャワーなどで簡単に洗い落としてから塗布する。園内で塗布するようになってから少しずつだが皮膚がきれいになっている子どもも出てきた。効果はありそうだ。
 戸外遊びでは紫外線を浴びると悪化するケースもあるようである。日焼け止めによるかぶれも考えられるので安易には使用しないほうがよいだろう。帽子をかぶったり、長時間日にあたらないよう日陰で遊ぶ。日に焼けると真っ赤になり痒くなる子どもにはその様な配慮が必要であろう。

(v) 衣服の素材
 着用する衣服の材質により皮膚炎を悪化することにもなる。子どもが直接身につけるものは木綿がよいといわれている。子どもはもちろんだが、世話をする保育士も綿素材のものを中心にアクリルやモヘアのようにちくちくするものは避けたほうがよい。抱っこするときなど子どもの肌に触れることがあるからである。最近は冬でもセーターのような毛の素材ではなく、トレーナーなどの綿素材のものが多く出ているので、それらを利用するとよいだろう。

(vi) 嘱託医との連携
 このような健康に関することについては、嘱託医との連携がうまくいっており、新しい情報を常に把握できることが望ましいだろう。SIDSやアトピー性皮膚炎は原因も予防策もそして治療もまだまだ不明な点が多い。いろいろな情報が行き交う中でそれをどのように活用していくかを相談して適切な対応を行えるよう努力が必要だろう。


3.母子健康手帳の活用について
 母子健康手帳についてはその子どもの多くの情報が記録されている。生まれたときの状況や健康診査の結果、保護者の記録による子どもの育ちの確認、予防接種、歯科検診等の記録、乳幼児身体発育曲線を用いた身長、体重、頭囲等の記録などがもりこまれている。子どもを保育していく上でその情報は貴重である。入園時に見せてもらったり、園に提出してもらう健康調査や生育歴を記入するときには、参照してもらい正確に転記してもらう。また、園によっては必要箇所をコピーしてもらっているところもあるようだ。ただ、プライバシーの問題があるので取り扱いには注意したい。

 

 



<< 戻る
| 目次へ | 次へ >>